「聖なるもの」は映画への片思い

「聖なるもの」は映画への片思い

 やりたいことをやる、という若き監督の思いが、全編にわたってほとばしっている。4月14日公開の「聖なるもの」は、前作「花に嵐」(平成28年)がカルト的な人気を呼んだ岩切一空(いそら)監督(26)が、自ら体を張って挑んだスペクタクル自主映画だ。恋愛にホラー、コメディー、特撮と、さまざまなジャンルを縦横無尽に駆け抜けた感じだが、「女性に対する片思いとともに、映画への片思いの気持ちも込められている」と打ち明ける。

■振り向かないから追いかけたい

 「そもそも映画を作ること自体が片思いみたいなものだと思う。こっちを振り向いてくれなくて、もういいかも、と諦めようとしたときに、ちょっと振り向きかけてくる。でも片思いの女性のように、振り向かない相手ほど追いかけたくなるもの。もちろん両思いの監督もいるでしょうが、僕にとって映画はうまくいかないことばかりです」と岩切監督は苦笑する。

 「聖なるもの」で監督自身が演じる主人公は、大学で映画サークルに所属する岩切くん。1本も映画を撮らずに3年生になるが、ある日、4年に一度現れるという「怪談の少女」の話を先輩から聞く。彼女を主役に撮った映画は必ず大傑作になるというもので、新入生歓迎合宿の夜、窓の外を歩いていた少女を目にした岩切くんは「怪談の少女」だと確信する。

 あたかも登場人物の視点で見ているかのように撮影するPOV(Point Of View)の手法を駆使し、岩切くんが持ち歩くカメラの映像と劇中劇の映像が入り乱れ、現実と幻想が交錯する。岩切くんが特撮のセットを破壊する場面をその両方の視点でとらえた映像もあれば、少女役の南美櫻(みお)らが東京・渋谷の街をはしゃぎ回るシーンもあるなど、若さに任せて弾けまくった感じで、映画と音楽の祭典、MOOSIC LAB(ムージック・ラボ)2017ではグランプリなど4冠に輝いた。

■平日昼間に映画館通いの中学生

 「内面と現実の2つの世界が同時に存在する村上春樹さんの小説がすごく好きで、POVとそうでない映像の組み合わせで模索しようと思った。夏と冬、山と海などいろんな二項対立を盛り込んでいて、映画を作ってきた人間がセットを壊す側に回るというのも、創造と破壊の二項対立です。あのシーンは、庵野秀明監督が自主映画時代、自らウルトラマンを演じて特撮に挑んだことがあり、やってみたいなと思っていたのですが、思っていたよりも火花が激しくてびっくりしました」と笑う。

 こんな岩切監督だが、小さいころから映画に夢中だったというわけではない。中学時代、学校に行くのが嫌で、平日の真っ昼間から東京・渋谷の映画館に入り浸っていたことがあるが、「暇つぶしだったので、どんな映画を見たかあんまり覚えていない」という。

 早稲田大学に進学し、最初は漫画サークルに入ろうと思ったが、絵が描けないことに気づいて断念。漫画家の中には、若いころに映画を撮っていた人がかなりいることを知り、映画サークルをのぞいてみた。

 「先輩が面白そうな人たちで、これはいいな、と入った。でも3年までは1本も映画を完成させずに、ただいるだけでした」

 だが3年生で初めて撮った短編「ISOLATION」(24年)が、学内の映画コンクール「早稲田映画まつり」でグランプリを獲得する。さらに長編の「花に嵐」(28年)が、若手映画作家の登竜門、PFF(ぴあフィルムフェスティバル)で準グランプリに輝くなど高い評価を得て、「聖なるもの」でのムージック・ラボ参加へとつながっていく。

■コントロールできないから面白い

 「自分では映画が下手だと思っていたのに、PFFに入選したら、うまいねといわれるようになった。そのことにものすごく違和感があって、映画をどうとらえていいかわからなくなりそうになる。自分でコントロールできないということも含めて、これは片思いなんだな、と思うんです」

 だが片思いのときが一番楽しいということも感じている。「両思いになった瞬間に冷めちゃうというか、どうでもいいや、となるタイプなんです。コントロールできない方が面白いときっていっぱいあるんだな、ということを、映画が教えてくれた感じですね」

 実は前作の「花に嵐」もPOVの手法で撮られている。大学の映画サークルに入って初めてカメラを手にした主人公が映画に魅入られるまでを描いた作品だったが、「聖なるもの」では映画に魅入られたものの映画に選ばれない人を取り上げた。次は映画に選ばれなかった人がどうするかという話を、やはりPOVで撮れればと考えている。

 「3部作なのかわからないが、それで初めて完結するのかなという気がする」と話すが、そのためには「聖なるもの」は極めて重要だと思っている。

 「現実には、やりたいからやる、じゃできないときもある。それでもあらがえない魅力が映画や少女役の南さんにはあって、それに片思いをしてしまう。この映画のことを全然知らないけどふらっと映画館に入って、見てみたらよくわからなかったけどすごかった、みたいな状態になってくれるとうれしいですね」

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